環境保護に対する世界的な意識の高まりとともに、電気自動車（EV）産業は、二酸化炭素排出量を削減するための重要な解決策として急成長しています。統計データによると、交通部門は世界の温室効果ガス排出量の約4分の1を占めており、その75%以上が道路輸送から発生しています。気候変動に対処するために、多くの国がEVの導入を促進しており、今後数十年で自動車市場を支配することが期待されています。

しかし、この目標を達成するには、EVのすべてのシステムとサブシステムの性能を最大化し、車両の航続距離を向上させる必要があります。重要なサブシステムである電動モーター（eモーター）は、車両の総エネルギー消費の約7%を占めており、モーターベアリングの潤滑最適化がエネルギー効率を改善するために不可欠です。

EVモーター軸受の潤滑ニーズ

リチウムベースと代替グリースの比較：EVのモーター軸受は主に摩擦と摩耗を減らすためにグリースを使用します。 グリースは基油、増粘剤、添加剤で構成されており、増粘剤の役割はその構造内に油を保持することであり、主にその化学組成に依存しています。 現在、リチウム塩ベースの増粘剤システムが市場を支配しており、リチウムベースのグリースは世界市場の約70%を占めています。 リチウム複合（LiX）グリースは、優れた高温性能、技術的な入手可能性、そしてモーターにおける効果的な潤滑のために高く評価されています。

しかし、EVバッテリーがリチウムの需要を増加させるにつれて、リチウム系化合物のコスト上昇や潜在的な毒性の懸念が、代替の非リチウム増粘剤の探索につながっています。ポリウレア（PU）グリースは、半極性化合物であり、低速時の優れた油膜厚、優れたせん断および熱安定性、そしてベアリング寿命を延ばす能力により、有望な代替品として浮上しています。

日本市場では、PUグリースが総グリース生産の約4分の1を占めており、このシェアは今後増加する見込みです。さらに、ヨーロッパ、太平洋地域、東南アジアでのPUグリースの需要も増加しています。

リチウムベースのグリースと比較して、ポリプロピレン（PP）グリースは、非極性の増粘剤システムであり、優れた潤滑性能を提供します。研究によると、PPグリースは摩擦性能評価において優れており、高い油放出率を持っているため、EVモーター用途での使用に適した候補となります。

オイル放出とモーターベアリング性能の最適化

オイル放出率（「ブリーディング」とも呼ばれる）は、EVのモーターベアリング性能を最適化する上で重要な役割を果たします。オイル放出は接触面のオイル量に直接影響し、オイルフィルムの厚さと摩擦トルクを決定します。オイル放出は一定ではなく、ベアリングの動作条件や増粘剤の劣化によって影響を受ける可能性があります。

グリースのオイルブリーディング挙動には、攪拌と放出の段階が含まれます。この間にグリースは再分配され、レースウェイにオイルを放出し、オイルの補充を制御し、潤滑不足を防ぎます。

不十分な油の放出は潤滑不良を引き起こし、ベアリングの寿命と性能に影響を与える可能性があります。一方、過剰な油の放出はグリースの早期消耗を引き起こし、その寿命を短くします。したがって、EVモーターのベアリング用グリースを設計する際には、油の放出率を調整し最適化することが、長期的な効率的運転を確保するための鍵となります。

EV潤滑の将来の方向性

EV産業の急速な発展は、潤滑技術における継続的な革新を促進しています。EVの市場需要が増加するにつれて、グリースメーカーはより環境に優しく、効率的で、コスト効果の高い潤滑ソリューションを開発するという大きな課題に直面しています。

ポリウレアやポリプロピレンのような代替増粘剤の出現は、グリース業界に新たな希望と可能性をもたらします。将来的には、グリースの成分や油の放出特性に関する詳細な研究が、EVモーターの性能をさらに向上させ、EV業界の持続可能な成長に寄与するでしょう。

◆ 出典：シュプリンガー・ネイチャー

◆ 参考: https://doi.org/10.1016/j.triboint.2024.109777